このカッコイイ自画像は、西暦1500年のデューラーです。
真正面を向いて、鑑賞者をじかに見つめるかたちの肖像画なんてめったにお目にかからないので、なんだかドキッとしてしまいます。このポーズは、中世以来の絵画的伝統においてもキリスト像の向きですから、29歳のデューラーは自らをキリストに似せて描いているようです。
ほかにも、なかなか凝った装いの自画像が有名ですから、デューラーは相当ナルシストなのかも知れません。でも、それは無理からぬことのようで、彼の友であり、すぐれた人文学者でもあったヨアヒム・カメラリウスは、
「彼は均整のとれた、がっしりとした肉体を授けられたが、それはこの肉体が包んでいた偉大な精神にまことにふさわしいものであった。・・・彼は、印象的な頭部を持ち、その眼は閃きに充ち、鼻筋はよく通り、首はやや長めで、胸板は厚く、体躯はがっちりとし、太い腿と丈夫な脚をもっていた」
と、デューラーの風貌を絶賛しています。
また、
「彼の指ほど繊細なものを見た人が、はたしていただろうか」
とまで述べていて、ちょっと驚くのですが、この自画像におけるしなやかな手の置き方は、祝福するキリストのテーマにしばしば用いられるものですから、ああなるほど・・・と、変に納得してしまうわけです。
真正面を向いたポーズといい、この手のかたちといい、宗教的イメージを創造する画家の役割をキリストに重ね合わせようという、デューラーの大胆な意図と自信が感じられます。
しかし、これはゆえなき自信ではありません。すでに語り尽くされたことではありますが、デューラーはドイツ絵画史上最大の画家です。デューラーなくしてドイツ・ルネッサンスはなかったし、もっと言うならドイツ・ルネッサンスそのものだったと言っても過言ではないのです。
それを思ってもう一度この自画像を見直すと、美しくカールして肩まで覆う髪が正三角形をなした荘重な雰囲気は、まさしくドイツ・ルネッサンスの救い主の姿に見えてきます。
★★★★★★★
ミュンヘン、 アルテ・ピナコテーク蔵