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「マグダラのマリア」

ジョヴァンニ・ジローラモ・サヴォルド (1530年代?)

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 世の虚飾を捨てたマグダラのマリアは、豪華な衣装や宝石をすべて投げ捨て、質素なマントをはおったと言われています。
 それにしても…..このように、頭からすっぽりと身を覆ったマリアを見るのは初めてです。表情には穏やかさも見てとれますが、どこかとても謎めいて、不思議な雰囲気を醸し出しています。傍らに香油の壺が描き込まれているために、いちおうマグダラのマリアと認めることができるものの、何も手掛かりがなければ、私たちは彼女をどのように受け止めていいのか、迷ってしまうかも知れません。こちらを見つめる目の中に、揺らめくようなメッセージが込められているようで….彼女の目を思わず見返して、そしてドキドキするようなサヴォルドの世界に、いつの間にか引き込まれていってしまうのです。

 サヴォルドは、彼の描いたマグダラのマリアに似て、その生涯が謎に包まれた画家です。フィレンツェで修業し、その後ヴェネツィアで活動したと思われますが不詳な部分が多く、作品の編年も、必ずしも明らかではありません。それは、彼自身が寡作家だったことにも原因があるのかも知れません。
 しかし、サヴォルドの、現在わかっている他の作品を見るとき、その絵肌、材質感に対する精緻な注意力には感動をおぼえます。この作品でも、マグダラのマリアの全身を覆う布の、皺の一本一本にまでいたるみごとな描写には目を奪われてしまうのです。そして、印象的な光線の扱い方、堂々たる人物のとらえ方などにはサヴォルドの傑出した才能があふれ、殊に光の明暗の効果は、後のカラヴァッジオの先駆者の一人に数えられているほどです。

 この作品の背景に見える風景は、ヴェネツィアのものと言われており、水の色と空の色の青さ、美しさが印象的です。ポール・ゲッティ美術館やベルリンなどでも同じヴァージョンの作品がいくつか見られますが、マグダラのマリアの表情、マントの色、背景などが少しずつ違っていて、それぞれによく似ていながら異なった魅力を感じさせます。
 精密な描写とヴェネツィア風の光と色彩の効果、そして何よりもサヴォルドらしい謎めいた抒情性が宗教画であることを忘れさせてしまう、特異で忘れがたいマグダラのマリアの図です。

★★★★★★★
ロンドン、 ナショナル・ギャラリー 蔵



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